“キャズム”とは何か?

こんにちは! nulo(ニューロ)株式会社のハギ(Hagi)です。

1991年にマーケティングコンサルタントのGeoffrey A. Mooreが発売した著書『Crossing the chasm』で注目され始めた“キャズム(Chasm)”という言葉、会社内で新商品開発やマーケティングを担当されている方なら一度は耳にしたことがあると思います。
インターネットが世に広まる前から、通信の世界だけでなく、様々な技術分野において、新技術の普及や新製品のマス市場への拡大が大きな課題とされてきました。デジタル技術だけでなく、アナログ技術の分野においても、“キャズム”はいつも新技術を活用した新商品を発売する際に、直面する大きな課題だったと思います。
“キャズム”という英語の言葉(Chasm)を日本語で直訳した場合、「幅広く深く避けた割れ目」あるいは「深い溝」などと訳されます、つまり、新商品や新技術が、ターゲットとしている当該市場に普及していくための“壁”あるいは“谷間”という意味合いになります。
“キャズム”がマーケティングの議論の中で語られる際、イノベーター理論から派生して語られることが多く、いわゆるアーリーアダプター層から如何にマジョリティ層に如何に拡大していけるか、が、“キャズム”を乗り越える際のキーファクターとなっています。



普及に至らなかった、いわゆる、“キャズム(Chasm)”を超えられなかった例としては、1990年台後半からアーリーアダプター層に浸透していた”PDA”という商品カテゴリーがあります。NECのモバイルギアやシャープのザウルスなど、「懐かしい~!」と唸っていらっしゃる方々も多いと思います。私がいたソニーでも、CLIEという特定ユーザーにクリーンヒットしたPDA端末があったのですが、携帯電話がPDAの機能の数々をその進化と共に吸収することになって、市場から徐々に姿を消すことになってしまいました。その延長線上とも表現できるiPhoneがある意味、キャズムを渡ってくれたこともあり、PDA~ブラックベリー~iPhone/Android端末とユーザー層が広がりながら、乗り移っていったような気がします。

ここで表現する市場は、必ずしも、市場全体という意味ではなく、あくまで、その製品や技術が対象としているターゲット市場
ということも言えます。例えば、家庭用ゲーム機器は、市場全体への普及率という意味ではさほど多くないかもしれませんが、そもそも「ゲームが好き」というターゲット層や、「スマホゲームでは物足りない」というターゲット層を対象としており、一応、「キャズムを超えて」対象市場に普及した商品カテゴリーであるとも言えると思います。「ビデオゲーム自体が好きでない層」もいるでしょうし、消費対象が全く異なる層もいるので、要は「如何に速く、対象と想定するターゲット層にリーチし、マジョリティ層に支持され続けるようになるか」ということが重要でありますし、その中できちんと採算が取れ、新商品や新技術に投下し続けた投資全体がリクープ(Recoup)できるようになるか、を考えねばならないと思います。

加えて、“キャズム”(普及するために乗り越える谷間)を乗り越えるためには、周辺環境の整備というのが欠かせないようにも思えます。現在のスマホゲームの普及には、①快適な操作環境を支えるCPUやメモリなどの周辺技術の向上、②データのやり取りをスムーズにさせる高速ネット環境、③安価にスマホが購入できるための技術革新や量産化技術など、単製品の単一の技術革新だけでは乗り越えられない背景もあります。
そして、“キャズム”を乗り越えさせるために、利用者の負荷や利用する際のハードルを下げてあげたり、利便性を向上させることも重要な要素となりうるように思います。ソニーやパナソニックが電子書籍端末を発売して、PRやマーケティング活動を積極的に行っていた時期がありましたが、ダウンロードから読む動作に至るプロセスの簡便性、書籍ラインアップの充実、など、現在、アマゾンのKindleやアップルのiPadが乗り越えていく壁を、乗り越えられなかった理由や課題が幾つかあったように思います。

FacebookやLINEなどのSNSはスマートフォンの爆発的な普及とネットワーク環境の整備と共に、一気にキャズムを超えていきましたし、また、「ルンバ」など自動で掃除するロボットや、遠隔操作で容易に飛行できるドローンなどはこれから技術が成熟し、市場環境が整う中で、“キャズム”を超えていくような商品カテゴリーだと思いますし、Apple Watchなどを中心としたスマートウォッチの商品カテゴリーに関しては、“キャズム”を乗り越えられるかどうか、微妙な状況に思えます。

そういう意味では、周辺環境の普及状況なども見極めて、適切なタイミングで、プロモーション・普及活動やマーケティング、技術に対する人的・金銭的な投下に対して、アクセルをどのスピードで踏んでいくのか、というのも、キャズムを乗り越えるための成功要因になると思います。



イノベーションを産み続ける会社だけが、利益を出し続けたり、長期的に成功を収める訳では決してないので、全ての会社に当てはまる理論ではないですが、新市場を作ろうと意気込む会社にとっては、一つ参考となる理論だと思います。
皆様の会社でも“キャズム”という理論を意識しながら、過去事例や周辺環境を丹念にレビューしながら、商品や技術と冷静に向き合ってみてもいいかもしれません。

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